第1回 缶々商社 B子さん
関西のアートマーケットや骨董市で、路上で拾ったつぶれた空き缶を、額装するなどして販売する、という、たいへんユニークな活動をしている方々に出会いました。
その、「缶々商社」の創始者の一人で、現在は群馬県で活動をされている、缶 々商社 B子さんに、電話とFAXでインタビューを行いました。
オランダ・ハーレムでアンティーク市に参加。
6個売れた。
ひらかんは
朽ちてゆく…――缶々商社では、どのような作品を出店されていますか?
路上にて打ち捨てられ、轢(ひ)かれ錆(さ)びた空き缶を、<ひらかん>という商品名で商っております。
――どうして、缶を売ろうと思われたのですか?
ひらかんのかくされていた価値を見出したところで、ではその価値って実際なんぼやねん、と問いかけてみることにしたのです。それを広く、様々な価値観を持った人々に問いかけてみたかったので、お金で、その価値をあらわしてみようということになりました。
――なぜ、「アートマーケット」で作品を発表・販売されるのですか?
缶々商社としては、ひらかんを路ばたで売りたいところなのですが、警察なんかがやって来そうなので、できません。
商っていいところならどこでもやる、ということで、アートマーケットに限らず、フリーマーケット、ギャラリー、イベント会場で営業しています。
――アートマーケットならではの、お客さんとの直接のやり取りの中で、手ごたえや、感じたことなどがあれば教えて下さい。
缶々商社に気づかず
通り過ぎるおばあさん 「いやあ、何これ?」
「リサイクルかいな」
「ゲージュツやん、
ゲージュツ!」 このまんなかの方に
ご購入いただきましたフリーマーケット、特に京都の弘法市では顕著(けんちょ)なのですが、缶 々商社に気づかず通りすぎる人が、案外いるのです。
骨董品、漬け物屋、かき氷屋が並ぶなかに、ぺちゃんこの空き缶を売っているのだから、目立つだろうと思うでしょう。でも、要らない人にとっては要らないのです。ちらりと目をやっても、それが何かなんてどうでもいい、とにかくその人たちに必要なのはおまんじゅうや植木なわけです。
そうすれば、一方、缶々商社が目に入ってきてしまった人、「アレ?」と気づいてしまった人というのは、ひらかんやひらかんのようなものをその人の生活に必要としているのでしょう。
そして、立ち止まった人々の中でも、ひらかんを買う人、ごくわずかではありますが、この方々つわものでいらっしゃいます。
即決して購入される方もいますが、たいがいは、ひらかんをじーっと見ています。おし黙り腕を組み、じっと見つめ続けているお客さんの頭の中は、きっとすごい速さで、思考が巡らされているのでしょう。
ひらかんを買う、というときのお客さんの目は、真っ直ぐで、つられてこちらもテンションが上がります。こういうお客さんに買ってもらえたひらかんは幸せですし、その出会いに立ち会えた私も幸せを感じます。
この極上の一期一会をはたせたときが、缶々商社の醍醐味ではありますが、これが極上のひらかんでなければ、そうはならないのです。
「このひらかんは、売るに値する。」と自分が確信できるものでなければ、店頭に置けません。だから、缶拾いにしても、今ではすっかりひらかんをみる目が辛(から)くなってしまい、めったに拾い帰ることはなくなってしまいました。
――缶を見る目についてのお話がありましたが、どういう缶 であれば売るに値するのか、少しお話をお聞かせ下さい。
どういうひらかんを良しとするかは人によって異なるのですが、缶々商社行商部の基準は、
一に、圧され具合。 ぺちゃんこであればあるほど良い。
二に、錆び具合。 例えば、海のそばに落ちているものは、潮風のおかげで赤燈色に錆びていて素晴らしい。
三に、折れ具合。 折れれば折れるほど良いというわけではない。もともと円筒形のものが、圧されるので、その折れ方は多様。でも、まれに相似形のものが二缶 拾えたりする。
その他、もともとの缶の柄が、味のあるものもある。(バヤリースのみかん君とか、トマトジュースとか、海外の製品とか。)
――アートマーケットにまつわるエピソードを教えて下さい。
オランダ、ハーレム
「フィッツン・ ファブリック」 での行商缶々商社の店頭で、固まっているのは、たいてい子供です。彼らがなかば憤って言うには、「缶 ジュースを買うのに120円かかるのに、こんなゴミが300円で売られているのはおかしい。」「ゴミを拾うなんて汚い。」「ましてや売るなんて…。」
オランダで店を開いたときも、三人の男の子が店先で、顔をこわばらせていました。そこに居合わせた男性が、彼らの意見を英語に訳して私に伝えてくれました。
やはり、製品より、捨てられたものが高い値がつくことに納得がいかない様子。あーだ、こーだとやってると、そのうちの一人の少年が弱々し気に言ったのです。
「でも僕は、こういうの、いいと思うんだよ…」そして彼はお母さんを呼んで、「缶々商社シール」と「えせひらかんカタログ」を買ってくれました。
私は傍らでそれを見ていただけでしたが、かなりハラハラしました。日本でもそうですが、子供達というのは、率直に語ってくれます。
――缶々商社には、いくつかの「支部」がおありなのが、とてもユニークだと思います。それらの支部について、お話を聞かせて下さい。
缶々商社の扱う作品というのは、缶々商社が作ったものではありません。ひらかんは、現代日本社会が産み出した芸術作品ですので、今、この時代、日本で暮らしている人なら誰でも、それを拾い、売ることが出来るのです。
今活動している支部は、缶々商社行商部、京都支部、神戸支部があります。
行商部は私、B子がトランクひとつに収まるだけのひらかんを携え、各地のフリーマーケットやイベントにて店を開くというものです。
白く塗られた木箱に磁石で
スチール缶をセット トランクの箱を展開すると
小さい屋台になる えせひらかんシール商品は極力加工せず、白い木箱にセットしたひらかん、透明アクリル板にセットしたものが主で、他にえせひらかんシール、えせひらかんカタログがあります。
京都支部長
柏井銀次氏京都支部は、柏井銀路氏が主催の、定点で定期的に店を出して、固定客を増やそうというものです。こちらではオリジナルポストカードやTシャツ、キーホルダーに加工して販売しています。
>>京都支部について
神戸支部長福本恵子氏神戸支部は、福本恵子氏が主催、2000年に起業されました。
>>神戸支部について
ちなみに彼ら支部長に、缶々商社に協力してほしいなどと頼んだことはなく、各々ひらかんをテーマにやりたいように展開しています。儲かるものでもないのに不思議です。「せやからあんたたちが缶 を拾ったんやなくて、あんたたちが缶に拾われたんや。」と先日知人に言われました。
――今後の缶々商社の活動のご予定は。
今年2001年の春に、群馬県館林市にあるスペースUというギャラリーの企画で「缶 々商社・植樹祭」なるものが立ち上がりました。
缶々商社植樹祭DMそれは、有志をつのり、各々がひとつずつひらかんを拾い、そのひらかんについて語った 文章を添え、展示をし、各々のひらかんについてオークションを行います。そして、そのオークションで得た売上金を集め、一本の木を買い、植える、というものです。
今年は十数点のひらかんが持ち寄られ、それがオークションにて完売、総額は約二万円にもなりました。そして一本の大島桜が購入され、栃木県佐野市の旗川緑地公園の桜並木に植樹されました。
この企画はスペースUを主催するタカユキオバナ氏の発案です。
毎年行われ、その都度、どこに何の木を植えるかを、参加者で検討していくとのことです。――どうもありがとうございました。
<インタビューを終えて>
一度見たら忘れられない、缶々商社。しかし、興味のない人は気づきもしない、というB子さんのお話には驚かされました。
お話をうかがって、単に作品を売ってみるだけでなく、販売という行為そのものが、缶 々商社のアート性を支えているように思いました。それは、アートマーケットの良い点である、販売を通 したコミュニケーションとも、どこかつながりがあるようです。
世界のどこかで、「缶々商社」の看板を掲げて、缶 を売っている人に出会われたら、一度立ち止まって、ご覧になってみてはいかがでしょう? そうすれば、新しい「目」が開かれるかもしれません。
缶々商社へのご連絡は、「アートマ」より転送します。 artma@ziplip.co.jp
本文中の写真は、缶々商社よりご提供を受けたものです。著作権は缶々商社に帰属します。
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